ウクライナ戦争や米中対立、台湾有事のリスクなど、国際秩序の大きな変化を感じる出来事が次々と起きています。
この記事では、斎藤ジン氏による『世界秩序が変わるとき』を読み、現代の国際情勢をどう捉えるべきかについて考えたことをまとめました。

著者|斎藤ジン氏について
斎藤ジン氏は、東京大学法学部を卒業したのち1993年に渡米し、ジョンズ・ホプキンス大高等国際問題研究大学院を修了。
その後、ヘッジファンドやG7系機関投資家を顧客とするワシントン拠点の投資コンサルタントとして長年活躍し、ジョージ・ソロス氏や現米財務長官スコット・ベッセント氏を顧客・交友関係に持つ実績があります 。
加えて、日本の経済・政策研究においても存在感を放ち、日本経済研究センターのシニアフェローなども務めた経験があります 。
国際情勢・金融市場・地政学リスクという相互に絡み合う複雑な問題を、構造的な視座で分析するスタイルは本書でも遺憾なく発揮されています。
なぜ、今この本を読むべきか?
現在の世界情勢を見渡すと、「戦争」「覇権争い」「民主主義の揺らぎ」といった言葉が、かつてないほど現実味を帯びてきています。
ウクライナでは、2022年に始まったロシアの侵攻がいまなお長期化し、戦場の外にいる私たちもエネルギーや食料価格の高騰という形でその影響を受け続けています。
中国とアメリカの対立も激しさを増し、「台湾有事」はもはや仮説ではなく、現実的なリスクとして国際社会の緊張を高めています。
アメリカ国内では、新自由主義がもたらした経済格差や地域間の分断を背景に、ラストベルト(中西部工業地帯)の白人労働者層の不満が噴出し、トランプ氏の登場とともにポピュリズムの波が政治を揺さぶっています。
これらの動きは、どれも単なる偶発的な事件ではなく、冷戦後に築かれてきた世界秩序が根底から組み替わろうとする「構造的変化」のあらわれにほかなりません。
本書『世界秩序が変わるとき』は、こうしたバラバラに見える出来事をひとつの地図のように整理し、背後にある力学をわかりやすく示してくれる一冊です。国際政治に詳しくなくても、ニュースの裏にある構造を立体的に理解できるようになる――それが本書の最大の価値だと思います。
世界秩序が変わると、日本はどうなるか?
では、こうした「構造的変化」によって世界秩序が塗り替えられていく中で、日本はどのような位置に立たされるのか――。
この問いに対して、著者は、「日本は相対的な勝者になりうる」という見通しを示しています。混迷する国際社会の中で、日本が“選ばれる側”になり得る、という指摘です。
その前提として、まず重要なのは中国の影響力です。かつては「世界の工場」かつ「巨大な成長市場」として注目を集めた中国ですが、現在では国家統制が強まり、民間企業や外資に対する締め付けも厳しくなっています。政治リスクが経済リスクに直結するようになり、かつてのように安心して投資できる国とは言いがたくなっています。
こうした中、アメリカは明確に中国との対抗戦略を強めており、日本を再び重要な同盟パートナーとして位置づけ直しています。防衛面では、台湾有事を想定した軍事的な連携が進み、経済面では、半導体やレアアースといった戦略物資をめぐるサプライチェーン強化の一角を日本が担うなど、“頼れる隣国”としての期待が高まっているのです。日本は、米国主導の「インド太平洋戦略」においても、軍事・経済の両面で中核的な役割を果たす国として位置づけられつつあります。
これまでの日本は、戦後秩序の中でアメリカに従属しつつ、経済面では新自由主義の波に乗り切れず、どこか“取り残された感”のある存在でした。けれども、いま再編されつつある新たな秩序の中では、安定性・信頼性・技術力といったソフトパワーを備えた「相対的に選ばれる国」として、新たなポジションを築ける可能性が見えてきています。
もちろん、これは自動的にそうなるという話ではありません。著者は、日本の将来を楽観視しているわけではなく、現実を直視し、政治などを通じて自らの戦略を主体的に選び取ることができるかどうかが分岐点になると指摘します。
まとめ
本書は、国際情勢の裏にある力学を冷静に見つめながら、「世界がどう動くか」だけでなく、「その中で日本はどう立ち位置を選ぶか」を考える上で重要な一冊です。
戦争や覇権争い、ポピュリズムの台頭といった現象は、単なる偶発的な事件ではなく、長期的な構造のうねりの中で起きています。著者・斎藤ジン氏は、それらをエビデンスをもって分かりやすく解説してくれます。
地政学や国際政治に詳しくなくても、本書を読むことで、断片的だったニュースや出来事が“ひとつの地図”としてつながっていく感覚が得られるはずです。混迷の時代に、自分の思考を整えるための座標軸を持ちたい方にこそ、おすすめしたい一冊です。