『機動戦士ガンダム』シリーズは、SFとしての完成度、心をくすぐるモビルスーツのデザインはもちろんのこと、戦争、差別、階級、企業支配といった現実社会の問題を通して、「人はなぜ戦うのか」「自由とはなにか」といった深い問いを投げかけてくれます。
本記事では、そんなガンダムシリーズに散りばめられた数々の名セリフの中から、管理人が心を撃たれた言葉を、シリーズごとにセレクトしてご紹介していきます(随時更新)。
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水星の魔女
「逃げたら一つ、進めば二つ」
本作全体を貫くキーフレーズ。主人公スレッタ・マーキュリーが母プロスペラから教えられた、生きるうえでの行動原理。
幼いスレッタが注射を嫌がる場面で、プロスペラが「逃げれば痛くないが手に入る。進めば病気にならず、お母さんが喜び、水星の人たちが褒めてくれて、スレッタのレベルが上がって注射も痛くなくなる」と語る。このように「進むことで複数の良いことが手に入る」という発想が、スレッタの思考と行動を形成していく。
とても前向きな言葉であり、ミオリネら周囲の人々にも影響を与えるが、物語が進むにつれ、その危うさも露呈する。物語の後半、母の期待に応えようと「進む」ことを無条件に選び続けた結果、スレッタはミオリネたちを守るためにモビルスーツで相手を倒すこととなるが、ミオリネに「人を殺してなぜ笑っていられるの?」と言われ苦悩する。
「進めば二つ」は、一見すると前向きな選択を促す完全にポジティブな言葉である。しかし本作においては、この言葉は単なる励ましのフレーズではなく、外部の価値観や構造に無批判に従うことの危うさを含んだセリフとして機能している。
「誰の思いも背負ってない奴が、邪魔してんじゃねえ!」
地球出身のアーシアンであるチュチュが、スレッタの実習再試験中に妨害行為を繰り返したスペーシアンの生徒に向けて放った痛烈な一言。
水星の人々の期待を背負い、必死に努力するスレッタの姿を見てきたチュチュにとって、無責任な妨害は看過できるものではなかった。チュチュ自身もまた、地球の仲間たちの期待を背負い、宇宙で生き抜こうとしている存在。このセリフには、仲間の思いを背負う者としての誇りが込められている。
当初はスペーシアンであるスレッタとも対立していたチュチュであったが、このシーンをきっかけに、心の深い部分で2人に共感が生まれるようになる。作中でも屈指の“スカッとする名場面”である。
「水星ってお堅いのね、こっちじゃ全然ありよ」
アスティカシア学園では、決闘に勝利したホルダーがミオリネの婚約者となるルールが存在。グエルとの決闘に勝利したスレッタが花婿としての権利を獲得し、「私、女です…けど⁉」と戸惑いを見せた際、ミオリネがさらりと放ったのがこのセリフ。
ミオリネだけでなく、周囲は女性であるスレッタが婚約者になることに特段違和感はない様子。水星の価値観は、わりと地球に近くて保守的なのかもしれない。
国家という単位を超えて、惑星によっても物事の考え方は大きく異なることを示唆している。価値観が違うからこそ、摩擦や誤解も生じ、亀裂が深まると次第に争いに発展する。
「お父様の力のおかげなのにって思ったら、なんだか可笑しくなっちゃって」
このセリフは、ミオリネが父デリングへの反発を口にした際、プロスペラが放った強烈な一言。
ミオリネは、自身の人生が父によって勝手に決められていることに対する強い不満を口にする。それに対して、プロスペラは、皮肉を込めて微笑みながら言い放つ。
「その素敵なドレスも、今身に付けているヒールもアクセサリーも、寮には入らず理事長室で生活しているのも、他者から受ける敬意も、その全てが、ベネリットグループ総裁であるお父様の力のおかげなのにって思ったら、なんだか可笑しくなっちゃって」
ミオリネが身に付けているもの、こうして自由な発言ができる環境、周囲からの敬意など、すべてが父デリングの権力によってもたらされたものであることを指摘し、その矛盾を突いた。この一言は、ミオリネの純粋な反抗心に対する、大人の視点からの皮肉と現実の提示である。
「私から逃げないでよ。言いたいことあったら言ってよ。いつもみたいにうっとうしく進んできてよ。任せてくださいって私に言ってよ」
スレッタが「自分はもう必要とされていない」と思い込み、ミオリネのもとから距離を取ろうとした場面で、ミオリネが涙ながらに放った言葉。
ミオリネは多忙な任務に追われる中で、スレッタの孤独に気づけずにいた。一方のスレッタも、自分の存在意義に揺らぎを感じ、誰にも打ち明けられずに悩んでいた。地球寮の昼食で、自分の分のチキンオーバーライスがなかったことにも何も言えなかった姿が、その心の状態を象徴している。
そんなスレッタに向けて、ミオリネは涙しながら本音をぶつける。願いと後悔が詰まったこのセリフは、二人の絆を再び強く結び直す感動的な場面。
「何も手に入らなくても、できることをすればいいんだ」
「逃げたら一つ、進めば二つ」。スレッタは、母プロスペラから教えられたこの言葉を、ずっと行動の指針としてきた。それは前向きな励ましであると同時に、母の思惑に沿って生きる“呪い”でもあった。
だが、進んだ先で彼女が手にしたのは、多くのものを失うという重い現実。仲間の死、ミオリネとの断絶、そして母やエリクトにすら突き放されてしまう。
心が空っぽになったスレッタを支えたのは、ミオリネと一緒に育ててきたトマトだった。そのトマトを仲間たちに配るという小さな行動の中で、スレッタはある答えにたどり着く。
「トマトを配っているときに気づいたんです。何も手に入らなくても、できることをすればいいんだ、って。」
報酬や成果を前提にした行動ではなく、他者への思いやりに根ざした自発的な意志への転換。“進めば何かを得られる”という呪いから解き放たれ、スレッタははじめて、自分の意志で歩き出す。母を止めるために再びガンダムに乗ることを決意する。
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