『資本主義と自由』(スティグリッツ著)|搾取をどう食い止めるのか?

「自由市場こそが最善の経済モデルである」という前提に、どこか疑問を感じたことはありませんか?

本記事では、ノーベル経済学賞を受賞した経済学者ジョセフ・スティグリッツの近著『資本主義と自由』を読み、現代の資本主義が抱える構造的な矛盾と、そこから抜け出すためのヒントについて考えます。

自由の名のもとに進められてきた市場原理主義は、本当に「人々を自由にした」のか――そんな根本的な問いに向き合う一冊です。

表紙がめちゃかっこいい
著:ジョセフ・E・スティグリッツ, 翻訳:山田 美明
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目次

著者|ジョセフ・E・スティグリッツとは?

スティグリッツは、アメリカを代表する経済学者であり、2001年にノーベル経済学賞を受賞。元世界銀行チーフエコノミスト、米大統領経済諮問委員会(CEA)委員長などを歴任し、理論と政策の両面で大きな影響力を持つ人物です。

彼の経済思想には、日本の経済学者・宇沢弘文の影響も色濃く見られます。実際、スティグリッツは宇沢氏に深い敬意を抱いており、機会あるごとにその功績を称えています。ともに「市場の失敗」や「公共性の重要性」に注目し、経済学を人間中心の視点から再構築しようとする点で、思想的な共鳴がありました。

スティグリッツは、市場原理の限界を早くから指摘し、新自由主義的な政策に対して一貫して批判的な立場をとってきました。リーマン・ショック以降、格差やグローバル資本主義の歪みが表面化する中で、その警鐘に再び注目が集まっています。

なぜ、今この本を読むべきか?

ウクライナ戦争、パンデミック、インフレと利上げ、気候危機――。現代社会は複数の危機が同時に進行する「ポリクライシス」の時代に突入しています。

こうした混乱の根底にあるのが、「市場に任せればすべてうまくいく」という盲信です。

スティグリッツは本書で、アメリカを中心に進められてきた市場万能主義が、自由どころか人々の生活と選択肢を奪ってきた事実を、歴史とデータを交えて明快に論じています。

“自由な市場”は、本当に“自由な人間”を生み出してきたのか?———その問いこそが、いま読むべき理由です。

「自由市場」がもたらした不自由

格差の拡大

“束縛のない自由な市場の中心にあるのは、「選択の権利」ではなく「搾取する権利である」。”

1980年代以降、世界を席巻した新自由主義は、富裕層と多国籍企業に有利なルールばかりを制度化し、労働者・中間層の利益を損なってきました。

最低賃金の停滞、医療や教育の市場化、社会的セーフティネットの劣化――。これらは「小さな政府」政策の結果であり、「自由」という名の下で行われた“選択と集中”の副作用です。

「自己責任社会」が奪った選択肢

“オオカミにとっての自由は、往々にしてヒツジにとっての死を意味する。”

スティグリッツは、「自由市場」が実際には多くの人々から選択の自由を奪ってきたことを重く見ています。

教育や住宅、医療の格差は、親の経済状況によって子どもの将来を決定づける社会構造を生み出し、“努力すれば報われる”という前提自体が崩れていると指摘します。

市場は失敗する。だからこそ「ルール」が必要

市場には限界があります。独占、情報の非対称性、外部不経済――これらはすべて市場の「失敗」と呼ばれるもの。

スティグリッツは、それでもなお自由市場を絶対視することの危うさを論じつつ、市場が機能するためには、むしろ強い民主主義と適切な制度設計が不可欠であると繰り返し強調します。

まとめ

『資本主義と自由』は、経済の話でありながら、それ以上に「社会のあり方」や「人間の尊厳」について考えさせてくれる一冊です。

スティグリッツは、資本主義そのものを否定してはいません。むしろ、それを機能させるためには、ルールと再分配、そして民主主義が必要だという、“資本主義のアップデート”を提案しているのです。

もし今の社会に漠然とした息苦しさや、不公平さを感じているなら、「自由」の正体と、「本当に選べる社会」とは何かを考える入り口として、この本を手に取ってみてください。

著:ジョセフ・E・スティグリッツ, 翻訳:山田 美明
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